社会や音楽etcについて

 

間違った中小企業支援策

2015.6.20

 

2015年4月、安陪総理は米国議会での演説を終えた後、スタンフォード大学のシンポジウムで講演した。その中で日本の中小企業200社をシリコンバレーに送り込む支援策を発表した。残念ながら、この支援策は基本的な点で間違っていると思う。

 

支援策の目的は中小企業がもつ優れた技術をシリコンバレーに売り込むことである。技術の売り込みならば見本市に出展すればよい。あるいはインターネットを使って世界に発信する道もある。ロボットやバイオ・医療の企業を支援したいとのことであるが、シリコンバレーの人達が何を求めているのかが分からないまま売り込みを支援しても成果は乏しく、税金の無駄使いであろう。

 

そもそもシリコンバレーはアイデアを持った野心的な個人が切磋琢磨し、競争する場所である。米国の基本的な文化は個人が自分の考えを他人に主張し、他人を説得することである。他人と異なる主張やアイデアがない人は尊敬されない。これが個人主義である。この文化は欧州にも共通する。

 

SF Golde Gate

シリコンバレーに近いサンフランシスコの

ゴールデン・ゲート・ブリッジ

 

他方、日本では会社単位の集団が仲間と協調しながら目標に向かう。個人が突出することをしない文化がある。自分を抑え、集団の利益を重視する。これは恐らく農耕民族のDNAに依っている。霞ヶ関の官僚も同様であろう。その結果として、企業がもつ優れた技術をシリコンバレーに売り込むことを、税金を使って支援しようという発想に繋がったようだ。シリコンバレーは税金による支援を受けてビジネスを展開する場所ではない。

 

シリコンバレーでの競争ゲームは個人戦である。個人戦に団体で参加することは場違いであり、団体参加は心底から歓迎されることはなく、お客さんとして扱われるだけであろう。

以下は私の友人のシリコンバレー体験談である。ある時期、彼も含めて日本の数社から人材がシリコンバレーに派遣され、米国在住の個人も何人かが参加して起業を相談した。個人参加した人はそれほど優秀とは見えなかったけれども、自分のアイデアを積極的に提案し、自分を売り込んだ。

 

他方、日本から参加した会社人間は黙って聞いているだけ。会社人間は何(what)をやりたいのかを発言しない。これまでなかった新しいもの(what)を考える訓練がされていないからであろう。事業あるいは研究において重要なことはwhatを考えることであり、whatを実現することである。

 

政府は成長戦略やイノベーションを推進したいと願っている。その願望は理解できるが、その願望を実現することは簡単ではない。高度経済成長の時代は会社単位の団体戦が有効であった。当時は先進国が作った物を真似すれば良かった。何(what)をやるのかを深く考えなくても間に合った。どうやるのか(how)を考えれば済んだ。高度経済成長から成熟社会に入った日本は先進国が生み出したものを真似るのではなく、他国が真似るもの(what)を生み出さなければならない。現在の日本は創造力が問われている。

 

創造ができる人材を育成することが大事である。この大切さを多くの人が理解している。しかし、人材育成の具体的な方法は何か? 答えは単純ではない。

 

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